イレギュラーな土地信託の場合の課税関係は?
1. 土地信託
土地信託というのがあります。土地を信託財産としているようなものですが、税法でいう土地信託というのはいくつかの条件を満たしているような土地信託です。現在取引されている土地信託は、税法上の条件を満たしているものばかりと思います。
土地信託に該当する場合は、その信託受益権を持っている人があたかも土地を持っている人とみなして課税するというルールです。
それでは土地信託の条件を満たしていないような土地の信託を行った場合の課税関係はどうなるのでしょうか。
2. 収益受益権と元本受益権
土地信託の条件の中で、元本受益権と収益受益権が分割されていないというのがあります。
元本受益権というのは、信託期間が満了したときに、元本を受け取る権利があることです。信託期間中の地代収入は1円ももらえません。収益受益権は、信託期間中の地代収入はすべてもらえる権利があります。
今回はこの元本受益権と収益受益権が分割されている信託を設定した場合の課税関係を考えます。
3.信託した土地を売却した場合の収入はどのように配賦されるのか
信託期間中に土地を売却した場合の売却収入はどうなるのでしょうか。
信託法の考え方によると、信託期間中の収入はたとえ土地売却による収入であっても収益受益権者が受け取ることになります。
でも税法的には、収入は元本受益権者と収益受益権者が受け取ると考えます。
たとえば土地の所有者Aが土地を信託し、元本受益者をBに、設定した場合、Bは設定時に取得した元本受益権について贈与税を納めないといけません。
そうすると税法的には、Bは、信託設定時に土地信託の元本受益権すなわち土地を取得したと考えるから、その土地を売却した場合の売却収入のうち元本受益部分は、Bが土地を譲渡した部分と考えて譲渡所得を計算するのが合理的です。
もしAが収益受益権を持っているならば、売却収入のうち元本受益部分を差し引いた残りが収益受益部分として課税することになるのではないでしょうか。
信託法の考え方と税法の考え方が異なるので奇異ですが、このような元本受益権と収益受益権が分割したような信託をするのは、家族や同族間しか行われないと思います。
4.元本受益権の所得の計算
土地の信託の元本受益権の譲渡は、土地の譲渡と同じと考えられます。土地を譲渡した場合は、譲渡収入から取得費と譲渡費用を差し引いて所得を計算します。元本受益権者が個人の場合は、分離課税され、所有期間によって税率が異なります。 BはAから元本受益権を贈与により取得しているから、Aの土地の取得費と取得時期を引き継ぎます。
ですからたとえばAが10年前に1億円で購入した土地を信託して、その土地を2億円譲渡した場合でBの元本受益権に対応する部分が1億5,000万円であるならば、 譲渡所得は5,000万円(1億5千万円-1億円)となります。税金は 5,000万円X20%=1,000万円
(15%は所得税 5%は住民税)
5.収益受益権の所得の計算
それでは収益受益権を譲渡した場合の所得はどうなるのでしょうか。収益受益権というのは、土地や建物のような資産ではなく、金銭債権と考えます。金銭債権の譲渡による所得は、譲渡所得と考えません。なぜなら金銭債権を譲渡したことによる所得はキャピタルゲインではなく、利子相当分だから、譲渡所得として課税するのは合理的ではないと考えるからです。
したがって収益受益権の譲渡所得は雑所得と考えます。それでは、雑所得の計算上の控除する取得費相当額はいくらになるのでしょうか。この収益受益権は、信託を設定することにより自動的に発生したものだから取得費相当額は0と考えます。
ですから上記の事例で 収益受益部分が5,000万円(2億円―1億5,000万円)ならば、この部分については他の所得と合算して超過累進税率で課税されるので、長期譲渡所得よりはるかに高い税金をAは納めることになります。
参考文献 山田煕、中森真紀子 『信託の税務 相続税対策としての戦略的活用本』 ぎょうせい
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