高齢化社会における個人信託制度の必要性
先日、新井誠編 「高齢社会における信託と遺産承継」を購入し、本をぱらはらとめくったら、これはと思ったので、ご紹介させていただきます。
杉並区在住の高齢女性は資産家であり価値のある不動産と多額の預貯金を保有していた。家族構成は、この女性と重度の知的障害のある40歳の子一人であった。この高齢女性は3つの希望を有していた。第一は、不動産を死ぬまで売却したくないとの希望がある。第二は、この女性の死亡後、当該不動産を娘に承継させたいとの希望がある。第三は、娘の死亡後、お世話になった杉並区の福祉施設に当該不動産を承継させたいとの希望である。結局この女性は悪徳業者に当該不動産を騙し取られ殺害されてしまった。
本事例における3つの希望は信託を用いることにより実現可能であった。
第一の希望は、信託を用い不動産の名義変更をし、信託目的として高齢女性が死亡するまで当該不動産を売却しないと定めることが実現可能であった。
第二の希望は、信託を用いて第3者に不動産を管理させたうえで、利益を娘に享受させることで実現可能であった。娘への財産承継は民法上簡単であるが、娘が財産管理能力を有していないため、たとえ不動産を承継させたとしても、娘の所有する当該不動産が悪徳業者により収奪させる危険性がある。そこで信託を用いる必要がある。
第三の希望は、いわゆる後継ぎ遺贈であるが、信託を用いれば実現可能であると解することができる。
新井誠編 「高齢社会における信託と遺産承継」日本評論社 2006年 269.270ページ
このようなケースは、潜在的にあると思います。信託の機能が、ニーズにほぼぴったりとフィットしているように思われます。
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