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2010年3月19日 (金)

日本IBMグループの追徴課税とグループ税制の改正

 昨日、日本IBMグループの4,000億円申告漏れがマスコミを駆け抜けました。

日経のタイトルは「日本IBMグループ 4000億円申告漏れ 国税指摘、過去最大 連結納税巡り」とあります。

 これを読むと連結納税が主役ようですが、専門家が読むと、自己株式の問題が主役。法律がそうなっているから、そのとおりにやったら税金が減る。経済人としては、経済的合理性を最大限追求しないといけない。だから、そのように努力したら、お上から叱られた。でも、このようなことをやっていたのはIBMだけじゃないと思うのですよね。IBMの場合は、巨額だから、追徴ということになったような気がするのです。

 自己株式の問題とは何か? 会社が発行した株式を、何らかの理由で、その発行した会社が買い取ると自己株式となります。たとえば、株主が帳簿価額80円の株式を100円で買い取ってもらった場合の会計上の仕訳は、

発行会社の仕訳は、  自己株式 100円  現金   100

株主の仕訳は     現金   100円  自己株式 80円

                     譲渡益  20円

でも、税務上は、原則的には、こうならない。税務上は、自己株式の成分を資本(株主がお金を拠出した部分)と利益(会社が稼いだ利益のうち、会社に残っている部分)に分解して、払戻金のうち、資本の部分は、資本の払い戻し、利益の部分は、株主に対して配当を支払ったものとみなすのです。

上記の事例で、追加して自己株式に相当する資本の部分が60円 利益の部分が40円の場合

 発行会社の仕訳は  自己株式 60円  現金  100

          利益積立金 40

 株主の仕訳は    現金   100円  自己株式 80

          譲渡損    20円  みなし配当40

株主サイドでは 譲渡損が20円 みなし配当が40円たつ、 普通の人がみると 損失と利益を相殺すると利益が20円たつから同じかなと思われるかもしれませんが、税務の世界ではそうならない。

なぜなら、法人株主が受け取る配当は、税務上、利益に計上しませんよという規定があるからです。なぜあるかというと、法人が稼いだ利益に対して、法人税が課せられた残りが配当と支払われ、その配当に対して税金をまた巻き上げるということは、同じ利益に対する2重課税じゃないかという考えがあるからです。その調整として、法人株主が受け取った配当は利益に計上しないという考えが原則としてあります。

だから、この事例の場合は、損失20円となるわけです。自己株式を買い取った場合は、必ずこのような状況になるとは限りません。会社の設立時からずっと持ち続けている子会社株式を買い取ってもらうような場合はまずない。ただ、利益が蓄積されている会社の株を買ってきて、その株を自己株式として買い取ってもらうような場合は、このような現象がおきてました。

自己株式から話が変わって、連結納税のお話を、 連結納税というのは、100%資本関係のある国内の会社グループをひとつの納税単位として税金を計算していいですよというシステムです。このシステムのメリットは、黒字の会社と赤字の会社の利益と損失を相殺して税金を計算できるから、赤字分節税ができるというメリットがあるわけです。

グループ会社を一体として考えるために、グループ会社で持っていた資産をグループ内のほかの会社に譲渡した場合のキャピタルゲインやロスは、その資産がまたまた譲渡される時点まで課税を繰り延べちゃおうというお約束があります。この資産の中には、株式なども含まれるのですが、自己株式の取得は、お約束の範囲外でした。なぜなら、自己株式の取得は、会社の事業において一般的に行われる取引ではなく、会社の基盤である資本の取引で特別だからという考えがあったからだと思うのです。

自己株式を取得すると資本関係や力関係に大きな影響がある場合もありますが、100%子会社の場合、持株を99%自己株式で引き取ってもらっても、株主構成はおんなじ。だけど、税メリットはでかい。単体課税なら損失を7年間も繰り延べできるし、連結納税だったら、他の会社の所得と通算できるしね。だからIBMさんのとった行動は経済人としてみると別におかしいことではない。ただ、お上としては、許せん やりすぎだ!怒りに肩を震わせられたのでしょう。

では、お上はどうしたか。 まず、平成22年の税制改正でグループ税制を導入し、100%グループ内の自己株式の取得に対する譲渡損益はないものとした。

それから、100%グループ以外で、いずれ自己株式で買い取ってもらうことを予定して買い取った株式を発行会社に譲渡した場合はみなし配当の益金不算入の規定の適用はないものとした。いずれにせよも、節税メリットが生じないように設計変更される予定です。

そして、IBM問題。 実務家としては、お上がどのような理由でIBMを否認したのかが興味もたれます。同族会社の行為計算否認なのか 連結法人の行為計算の否認なのか 否か。日経の記事によると「国税局は、エイ・ピー社の株取引は通常の経済取引としての合理性がなく、連結納税制度と組み合わせて納税負担を軽減し、法を乱用したと判断」この辺は、当事者じゃないとよくわかりません。

おそらく、審査請求だけで決着がつかず、裁判で争われ、最高裁あたりまでいくのではないかと思います。お上は威信をかけて争うと思いますけど、IBMも馬鹿じゃないからねえ。

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コメント

MUTOさん
自己株式の取得で、連結納税より単体納税の方がケースとしては多いのではないかと思います。単体でも、節税効果はありますし。

100%子会社に自己株式を買い取ってもらう合理的な理由として、たとえば、親会社の資金繰りが苦しくて、自己株式を買い取ってもらい、その代金を事業資金に充てるというようなものも考えられると思います。

投稿: 信託大好きおばちゃん | 2010年3月22日 (月) 22時57分

個人信託を検討する必要があって、調べていましたら、このブログを発見しました。
大変よく研究され、解説されていまして、感服いたしました。
大変助かりました。
厚く御礼申し上げます。

投稿: NISHIDA | 2010年3月22日 (月) 16時03分

いつも楽しく読ませていただいています。

よく判らないのですが、100%グループ内での自己株式取得というのは、どのような目的(意図)があって行われるものだと考えられますか?
連結納税という仕組みが無かったとしたら、100%子会社に自己株式取得させるという行為が行われなかったのではと思うのですが。

投稿: MUTO | 2010年3月19日 (金) 17時03分

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