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2020年8月16日 (日)

受益権複層化信託の法務と税務

 編著者の高橋倫彦さんからタイトルの書籍を頂戴しました。ありがとうございます。監修に前回のブログで紹介した佐藤修二さんが関わられていらっしゃいます。お友達なんでしょうか。
高橋さんは、金融機関で受益権の複層化の実務にも関わられたインテリジェンスが緻密につまった方で、その側面がこの書籍にあふれています。

 特にアメリカの信託とその税制の知見がきちんと整理されて文書化されているのはありがたいです。私も調べたことはあるのですが、調査能力と語学能力と時間の壁にぶつかり疑問が解消できずにいたところが解消できたところもあります。
 
 いただいた書籍のわずかな部分しか読んでないのですが、信託の受益権はたとえば、信託財産が株式の場合、配当をもらう権利のある受益権と信託終了時に元本をもらえる受益権のようなものに分割することができます。これを複層化というのですが複層化の受益権の課税関係が不透明で、しかも、受益者連続型信託に該当すると、信託期間中は収益受益者が全部財産をもっているとみなして課税されるという不合理があり、高橋さんもその点の不合理性を主張していらっしゃいます。

 アメリカの複層化された信託税制は、アメリカの相続(遺産税)贈与税の仕組みとフィットして上手に1回の課税で済ませています。これはアメリカの税制は日本と違って贈与税は贈与者が払う。相続税(遺産税)は被相続人の生前の贈与財産も全部相続財産に入れて、既に納付した贈与税を控除するというしくみであることが原因ですね。たとえば、委託者が信託して、自分自身を留保権のある収益受益者、相続人を元本受益者とした場合、相続時に被相続人は収益受益権だけでなく元本受益権も含めた全部に対して相続税(遺産税)が課されますが、信託設定時に払った贈与税を控除するから2重課税が排除されるとなるそうです。

受益者連続型信託の問題の解決案については、日本の学者先生方も論を展開していらっしゃいますが、高橋さんは、米国と同様に信託財産全部について受託者に課税する方法を提案していらっしゃいます。

日本だったら法人課税信託としての課税をするということでしょうか。そうすれば、やっかいな複層化の所得計算も工夫できるかもしれません。しかし、自益信託部分であったとしても設定時に譲渡所得課税されてしまいますし、他益信託の部分は、一旦自分の財産を時価で譲渡して、受益権を取得して、受益権の一部を贈与するという重課にたしかなるはずです。
また複層化だけを受託者課税にするというわけにはいかないでしょうから信託税制自体全面的に見直す必要もあります。

家族の資産承継のための信託税制は、所得税(法人税)と相続税、贈与税がリンクしています。相続税や贈与税は、日本とアメリカの相続の仕組み すなわち、包括承継か 管理清算かの大きな違いがベースで設計されていますから、アメリカ流に信託税制を再設計したとしてもうまくいくかなあ。 一般的な所得税や法人税のようにアメリカの税制を工夫して輸入というわけにはいかないように思います。

頭の悪い子供がパズルをあーでもないこーでもないと悩みながら考えていた部分が見えてくるのは、ほんとにありがたいものです。これからも機会があるときに読み進めていきたいと思います。

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