2011年4月 1日 (金)

東電と事業信託

 今朝の日経の社説は、「国・東電は市場の不安鎮め電力事業守れ」です。

 東電の株価が暴落し、社債市場でも評価が下がると、資金調達コストが上がってしまいます。銀行から資金調達できるとしても、2兆円くらいでは間に合わないらしい。東京電力は絶対に潰せない独占企業なんだから、国も柔軟な方法を考えろということが主旨だと思います。

 ファイナンスの方法として、東電の場合は、事業信託で資産を証券化して、証券を市場で売りさばくのが、資金調達コストから考えると一番いいのではないかな。

 企業の価値は下がっても、資産には価値がありますし、潤沢な現金収入が今後もありますから。

 特定の大口の投資家だけが引き受けるのではなく、普通の人でも引き受けることができるように受益証券発行信託のような形にしたらいいのではないか。

 そうすれば、特定の資金の出し手に東電の経営が振り回されるリスクが減るし、大きなお金を低コストでかき集めることができると思うけど、どうかな。

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2009年11月26日 (木)

事業証券化と自己信託2

以前、このブログでも紹介しました法律時報のシリーズ新信託法制と流動化・証券化 200911月号で 宮澤秀臣さんが「事業証券化と自己信託・2」をお書きになられていらっしゃいます。

 病院事業の証券化というか、社会保険診療報酬を自己信託して、受益権の価値に基づいてお金を調達しちゃいましょう いろいろ設備投資とかでお金がいりますからね。 ところで、問題点は何かな?というようなことが書かれています。

 社会保険診療報酬といっても信託した時点で発生しているものだけでなく、将来発生する債権も対象となるのですが、何年くらい先までOKかという論点があり、将来債権の譲渡に関しては、条件付で8年超の将来債権をあらかじめ譲渡することが有効とされているようです。

 じゃ、自己信託はどうか? 社会保険診療報酬って、病院が継続する限り、確実に発生し、かつ、貸倒になる危険性が少ないでしょ、だから、8年を超える期間の将来債権を対象とした自己信託もOKでしょうとお考えでいらっしゃいます。

 ただし、自己信託は譲渡じゃないから動産・債権譲渡特例法に基づき第三者対抗要件を具備すること(登記原因を信託とする債権譲渡登記)はできない♪

 ご興味のある方はご一読を♪

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2008年8月27日 (水)

事業の証券化 将来債権の証券化の問題点

 最近、8月なのにひんやりした日が続きますねえ。心地いいのだけど、ちょっとねぇ。

 昨日の早稲田の信託とファイナンスの特別講座の最終講は、弁護士の井上聡さん(信託の仕組みの著者)の講義でした。ほんとに詰まってるおじちゃんだなあと感動しましたね。信託大好きおばちゃんは、

 最後の方でわーっと事業信託系のお話をなさったのですが、記憶の整理のためにちょっと書き記しておきますと、

 証券化は、既存の債権だけでなく将来債権も可能となっているようです。

 債権譲渡特例法の改正があって、法人が有する債権で、債務者が特定してない将来債権の譲渡についても、登記をすることによって第三者への対応要件を備えることが可能となったようす。たとえば、オリジネーターが将来債権を信託譲渡して、かつ、同じ債権を別の者に譲渡した場合、信託譲渡について登記をしたら、別の譲受人に勝てるということなのかな。

 でも、たとえば、将来債権を信託譲渡したオリジネーターが、数年後、将来債権が生ずる部門を事業譲渡したとします。事業の譲受人が、その後、汗かいて大儲けしていっぱい債権を発生させました。この債権は誰のもの?そりゃ事業の譲受人のものでしょ。えっつ 将来債権を譲渡しているから受託者ひいては投資家のもだって!そんなもん関係ないじゃん。それは譲渡人の時代のお話でしょ。となるということではなかったでしょうか。 見当違いかもしれませんが♪

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2008年6月 2日 (月)

事業の証券化に向いてる事業って何だろう。

事業の証券化の最初は、イギリスのパブだったらしい。次は、離島へのフェリー らしい。

 なぜ、こんなのが、事業の証券化の先陣を切ったのだろう。

 いずれも、そんなに儲からない。でも、絶対になくならないビジネスらしい。イギリス人にとってパブは生活の一部だし、飛行場のない離島っていうのは、船以外は、常時の乗り物がないから絶対になくならない。

 独占的なインフラのような事業が向いているということなのかな。

 そうすると、 電気やガスは誰でも思い浮かぶこと。 

 日本人にとって絶対に必要な事業。 ある場所にとって絶対に必要な事業。 ある時期において絶対に必要な事業 そんなに規模が大きくなくても、収益性が高くなくても 少なくとも証券の償還期間までは、ほぼ確実に継続されるようなもの

神社の証券化、支払い原資はお賽銭やら寄付、倒産隔離なんていったら天罰が下りそうだからだめだ。

温泉の証券化。 温泉旅館がいっぱいあるようなところじゃなくて、たとえば、有名で、泊まるところがそこくらいしかなく、20年後も確実に湯治客がやって来る、例えば、玉川温泉のようなところはどうかな。

朝だから頭は冴えているのだけどぱっと思い浮かばない。何かないかなぁ♪

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2008年2月 1日 (金)

事業の信託の可能性と課題 救済・事業再生型

今週は、諸般の事情で、信託まわりばかり書いてます。

井上聡さんの「信託の仕組み」日経文庫という本があります。この本は、以前、ご紹介させていただいた道垣内弘人さんの「信託法入門」と並んで、信託の入門を学ぶのによい本といわれています。弁護士である井上さんの実務経験が行間からにじみだして、かつ、わかりやすいものです。

目次をみて面白いなとおもったのは、素人がみてもわかるやすいような見出しをつけていることです。たとえば、

受託者の義務―安心して託すため、柔軟な取引設計のための仕組み        

善管注意義務 - きちんとやりなさい

忠実義務 --- ずるせずにやりなさい

分別管理義務 ――きちんと、ずるせずにするために

自己執行義務の廃止 - ぜんぶ自分でやるのがよいことなのか

などなど

この著書の中で事業信託の可能性と課題というものがあります。救済・事業再生型信託、M&A型事業信託 トラッキングストック型信託に関して検討が行われています。

このうちの救済・事業再生型信託ですが、これは、たとえば経営が傾いたA会社が、同じような事業を営んでいるB会社に事業を信託し、再生を委ねます。再生を果たした暁には、信託を終了させ、もとのA会社に事業を戻すこともできれば、B会社の本来の事業に組み込むこともできます。B会社が受益権を全部買い取り1年間所有したら自動的に信託は終了しますしね。

このような場合、受託者であるB会社に信託業法の適用があるかというと、おそらく、頻繁に信託の引き受けはしないでしょうから、適用は、原則的にはないものと考えられます。

このような信託の場合の問題点は、B会社の利益相反の回避です。B会社は、受託者ですから忠実義務がある。つまり受益者であるA社を損させて、B社の利益を追求したらいけない。でも、B会社にも株主がいて、B会社の立場でいうと、株主のために利益を追求しないといけない。この2つの利益の追求といっても、A社、B社が同業であるならば、当然、お客さんがかぶることもあるので、競合状態のものもある。だから、こっちをたてたら、あっちがたたずとなり、どうしたらいいか困ってしまう場合もあるということです。このような問題が起こったときの解決策として、事前に信託行為(契約など)で、どうするから決めておくのがお約束なのでしょうが、経営では想定外のことが常におこるようなもの。だから、想定外まで踏まえてどうするか事前に決めておくなんて難しいということなのでしょうね。

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2008年1月22日 (火)

事業信託と会社分割・経営委任との相違点

商事法務No1821において弁護士の武井一浩氏、上野元氏、ならびに有吉尚哉氏が「事業信託と会社分割・経営委任との相違点」をお書きになっていらっしゃいます。

簡単にさわりをご紹介すると

「株式会社」形態には、権利義務の帰属者として法主体性、組織としての長期安定性、経済社会での認知などなどのメリットがある。

他方、事業信託は①契約自治に基づくガバナンスや収益分配等における柔軟性 ②信託法に基づいて明確化されている受託者責任 ③各種倒産隔離効果 ④信託受益権への法的転換などのメリットがある。

会社分割と事業信託の異なる点は、会社分割なら出て行った事業は帰ってこないけど、事業信託は期限つきだから、いつか戻ってくる。だからレンタル移籍に適した事業(たとえばチェーン展開をしている事業など)に向いている。

また、事業信託の場合は、契約により受益者に対して利益を与えるけど義務もあるよと決めることできる。株式会社の場合は、別に株主合意書などを作ならないといけない。

ただ、会社分割と比較すると、事業信託は、対象となる財産についての対抗要件の具備、債務引受の手続きが大変

事業信託と経営委任の異なる点は、経営委任の場合は、事業の全部を委任する場合だけ総会決議が必要 事業信託の場合は、事業譲渡と同様だから重要な一部の譲渡でも必要。また、委任の場合は、資産の譲渡や債務引受の面倒な手続きもいらない。でも、委任と比較して、事業信託の方が受託者の責任は重いし、受任者が倒産した場合のリスクを考えると、事業信託の場合、受託者からの倒産隔離がはかられることから、事業信託の方が経営委任より投資家にやさしい。

また、事業信託の発展のためには、受託者が一生懸命やったのに、うまくいかなかったような場合、結果責任を問われるのかどうかが明確ではなく、これが困った問題だよということもお書きです。

というわけで、非常にコンパクトにまとめられた原稿です。

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2007年9月26日 (水)

事業の証券化の本質は

ビジネス法務 2007.11号の特集は「スキーム別解説 事業会社のための新・信託法」です。

この中で、弁護士の森博樹氏が「新信託法と資金調達―事業信託を利用した事業の証券化」を書いていらっしゃいます。

その中で、事業の証券化の本質は、オリジネーターが通常のコーポレートローンで資金調達をする場合よりも有利な条件での調達を実現するという点であるとおっしゃってます。

なるほど、

そして、事業の証券化と異なる点は、事業主体の信用リスクから事業ないしキャッシュフローを隔離することにより、キャッシュフローを安定させる仕組みを考えること。

このしくみは2つあってそれは、

              事業主体の信用リスクをコントロールして、将来発生するキャッシュフローを安定させること

              経営が悪化した場合、事業主体から証券化された事業だけを切り出して、他の事業体に運営してもらうようにすること

だそうです。この辺って、以前、おばちゃんの記事でも書いた、ソフトバンクのボーダフォン買収で使われたスキームにおいて使われている仕組みにも現れているなと思います。

で、これは事業の信託を用いてできるのではないか。信託の本質は、委託者や受託者からの倒産隔離であり、自己信託を利用することによりコストセービングもできる。また、事業主体の変更も受託者の変更でできる。

事業の信託が広がるのは自己信託が可能となる来年からで、それまでは助走期間というか準備期間というか研究期間というか まあそんなものになるんだろううなあ♪

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2007年8月29日 (水)

事業の証券化

今朝の東京は、曇りで涼しい。昨夜は、久しぶりに冷房をきって、窓をばーんとあけ、床にマットをしいてごろんと寝ていたら、4時ごろに寒くて目が覚めました。

またまた、早稲田の「信託とファイナンス」特別講座からのネタ。これだけブログに書いていると3万円の元がとれそうですが。

昨日同様、弁護士の井上聡氏のレジュメから。 時間がなかったので井上氏のご説明はほとんどなかったのですが、井上氏の「証券化・流動化に係わるリーガルリスク ―信託法・信託業法改正のポイントを中心に-」レジュメの14頁、15頁に将来債権(事業の流動化)という項目がありまして、

具体例として

     病院事業の証券化(大規模医療法人による地域密着型優良病院事業の証券化)

     売掛債権の証券化(債務者不特定の優良営業店事業の証券化)

というのがあります。

法的にはいろいろ問題点があるのかもしれませんが、井上氏は事業証券化のポイントとして、オリジネーターの事業継続性が非常に大事。たとえ、倒産しても破産せず再生できるような事業をやっている会社がオリジネーターじゃないと困るといわれたような気がします。

資産の証券化の場合だったら、会社の価値でなく、その資産単独の価値がよければいいというものですが、事業の証券化の場合、いくら会社の一部門を信託して倒産隔離しましたよといっても、その事業をやっている会社自体がおかしくなっても信託された事業部門の収益は生み出せるとは限らないですよね。

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2007年7月30日 (月)

トラッキングストックと自己信託による事業の信託と事業譲渡

 トラッキングストックというのは、たとえば、企業の一事業部門の業績に連動して剰余金の配当を行うような種類株式のこと。

 事業の信託を使っても同じようなことはできる。たとえば、企業の一部門について自己信託(委託者=受託者となる信託 )を行い、受益権を投資家に発行する。投資家はその一部門で発生した享受する。

 同じようなことは、事業の信託以外に、一事業部門を分社して、その株式を投資家に発行することでもできる。

 どう異なるのか

 事業譲渡の場合は、手続きとして、重要な事業の譲渡の場合は株主総会の特別決議が必要。同様な手続きは自己信託の場合も必要。トラッキングストックを発行する場合は不要。

 事業譲渡の場合は、別会社に人や資産が移るので、人は出向か転籍を行う必要があり、社外秘のようなノウハウも漏洩するリスクがある。

 でもトラッキングストックや自己信託の場合は、他社に移るわけではないのでこのようなリスクはない。

 投資利回りはどうか。 トラッキングストックも分社も会社の税引後利益から配当を受ける。信託の場合は、原則的には、構成員課税だから、法人税分利回りは上昇する。ただし、原則的な構成員課税の場合は、各構成員が所得を計算することになるので、複雑な計算が必要となる場合もある。受益証券発行信託(有価証券で受益権を発行する信託)の場合で一定の要件に該当するときは、分配時課税であるため、構成員課税のときのように複雑な計算を投資家が行う必要はない。ただし、未分配利益の額が元本総額の2.5% 以下となるので、留保利益が残らないような信託を設計をする必要がある。

 

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2007年5月10日 (木)

事業信託の問題点

早坂文高氏 「事業型商事信託」 金融・商事判例,No1261.より、事業信託の課題点が書かれていますので、ご紹介

  会社を委託者とする事業信託の設定においては、自己信託及び責任限定信託を併用すれば、会社はその一事業部門を会社自身から切り離し、独立採算のもとに事業遂行することができる。事業を遂行する主体の法人格は同一であるが、その効果は「会社分割(分社型分割)」と同一であり、事業信託の設定は会社分割の機能を果たすことになる。

ところで、自己信託の設定は会社法の定める事業譲渡の規律に従うことになるが、会社分割については、株主総会での承認や会社債権者意義手続き等の保護手続きが要求されており(会社法373条以下)、事業信託の設定時の手続きが株主や会社債権者の保護という観点から十分なものであるか検討が必要であろう。

また、従業員との雇用関係を変更することなく、事業を信託という器に移転できることが自己信託のメリットとされているが、限定責任信託と併用された場合、信託財産たる事業の財務状況や営業成績に従業員の身分確保や賃金支払いが著しい影響を受けることになるので、会社による従業員に対する事前通知や協議義務のほか、会社分割における労働契約承継法のような仕組みが信託設定時の従業員や権利保護について必要となるものと思われる。

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