今週は、諸般の事情で、信託まわりばかり書いてます。
井上聡さんの「信託の仕組み」日経文庫という本があります。この本は、以前、ご紹介させていただいた道垣内弘人さんの「信託法入門」と並んで、信託の入門を学ぶのによい本といわれています。弁護士である井上さんの実務経験が行間からにじみだして、かつ、わかりやすいものです。
目次をみて面白いなとおもったのは、素人がみてもわかるやすいような見出しをつけていることです。たとえば、
受託者の義務―安心して託すため、柔軟な取引設計のための仕組み
善管注意義務 - きちんとやりなさい
忠実義務 --- ずるせずにやりなさい
分別管理義務 ――きちんと、ずるせずにするために
自己執行義務の廃止 - ぜんぶ自分でやるのがよいことなのか
などなど
この著書の中で事業信託の可能性と課題というものがあります。救済・事業再生型信託、M&A型事業信託 トラッキングストック型信託に関して検討が行われています。
このうちの救済・事業再生型信託ですが、これは、たとえば経営が傾いたA会社が、同じような事業を営んでいるB会社に事業を信託し、再生を委ねます。再生を果たした暁には、信託を終了させ、もとのA会社に事業を戻すこともできれば、B会社の本来の事業に組み込むこともできます。B会社が受益権を全部買い取り1年間所有したら自動的に信託は終了しますしね。
このような場合、受託者であるB会社に信託業法の適用があるかというと、おそらく、頻繁に信託の引き受けはしないでしょうから、適用は、原則的にはないものと考えられます。
このような信託の場合の問題点は、B会社の利益相反の回避です。B会社は、受託者ですから忠実義務がある。つまり受益者であるA社を損させて、B社の利益を追求したらいけない。でも、B会社にも株主がいて、B会社の立場でいうと、株主のために利益を追求しないといけない。この2つの利益の追求といっても、A社、B社が同業であるならば、当然、お客さんがかぶることもあるので、競合状態のものもある。だから、こっちをたてたら、あっちがたたずとなり、どうしたらいいか困ってしまう場合もあるということです。このような問題が起こったときの解決策として、事前に信託行為(契約など)で、どうするから決めておくのがお約束なのでしょうが、経営では想定外のことが常におこるようなもの。だから、想定外まで踏まえてどうするか事前に決めておくなんて難しいということなのでしょうね。
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